【組織づくりの処方箋 第3回】「誇りを持って働いてほしい」と願う経営者へ――仕事の意味づけの技術

これは、ある会社の社長と技術士の、架空の会話です。

「前回の話を聞いて、うちの仕事の意味や、この会社が目指していることについて、社員に少し話してみたんです」

社長がそう言いました。

「どうでした?」

「少し照れくさかったですが、真剣に聞いてくれました。『自分の仕事が、そんなところにつながっていたんですね』と言ってくれた社員もいました」

「それはよかったですね」

「ええ。ただ、話しながら、ふと思ったんです」

社長は少し考えてから、こう続けました。

「仕事の意味は分かってくれたかもしれない。でも、社員は自分の仕事を、誇りに思っているのだろうか」と。

私は少し考えてから、社長に聞きました。

「社長、社員は家族や友人に、自分の仕事をどんなふうに話しているのでしょうね?」

「仕事の意味が分かる」と「誇りを持つ」は、同じではない

前回、自分の仕事が「何につながっているのか」という、仕事の意味について考えました。

自分がしている仕事が、会社の何を支え、誰の役に立っているのか。

それが分かるだけでも、仕事の見え方は少し変わります。

私自身も、若いころは毎日の設備点検を、ただ繰り返す仕事だと思っていました。

「いつまで、こんな仕事をやらないといけないのだろう……」

そんなふうに思っていた時期があります。

でも、後になって、その毎日の点検が何を意味していたのかが分かるようになりました。

仕事そのものが変わったわけではありません。

自分の仕事を、別の角度から見られるようになった。

それだけで、同じ仕事が少し違って見えるようになりました。

ただ、それで「やりがい」や「誇り」がすぐに生まれるわけでもありません。

「この仕事は大切なんだ」と頭で理解することと、

「自分は、この仕事をやっているんだ」と感じることは、少し違うからです。

「やりがいを持たせよう」としても、うまくいかない

社員に、仕事のやりがいや誇りを持ってもらいたい。

社長として、そう思うのは自然なことだと思います。

でも、ここで少し考えてみたいことがあります。

「どうすれば、社員にやりがいを持ってもらえるだろう?」

そう考え始めると、どうしても「社員に何かを与える」という発想になってしまいます。

仕事の意味を説明する。

お客様からの「ありがとう」を伝える。

改善提案をしてもらう。

褒める。

もちろん、どれも意味のあることだと思います。

ただ、人の気持ちは、そんなに簡単ではありません。

仕事の意味を説明されても、「でも、この仕事はめんどくさい」と思うかもしれません。

褒められても、「別にうれしくない」と思うこともあるでしょう。

私自身も、若い社員と関わる中で、そんなことを感じたことがあります。

私が若手に、よく掛けていた言葉

では、私は若い社員に、どんなふうに声を掛けていたのか。

実は、たいした言葉ではありません。

「どう? 生きてる?」

です。(笑)

すると、苦笑いしながらだいたいこんな返事が返ってきます。

「何とか生きてます……」

あるいは、

「死んでますよ~」

なんて言う。

そこで私は、

「何? 何? 大変なことが起きてる? 何か手伝おうか?」

と聞きます。

すると、それが話のきっかけになることがあります。

「いや、この仕事、めちゃくちゃめんどくさいんですよ」

「へえ。何がめんどくさいの?」

「毎回、同じデータを二回入力してるんですよ」

「それは確かにめんどくさいな(笑)。なんで二回やってるの?」

「昔からそうなってるんで……」

そして、ここで思わぬことが起こります。

「え? じゃあ、それ、わしが決めたこと?」

「そうなんですか?」

「……」

「もう、どうにかしてくださいよ~」

「ごめん、ごめん。どうしたい?」

こんなやり取りです(笑)。

でも、これですべてがうまくいったわけではありません

ここは、誤解のないように書いておきたいと思います。

このように話をしたからといって、社員の仕事が急に楽しくなったわけではありません。

問題がすべて解決したわけでもありません。

話を聞いても、その後に何も変えられないこともありました。

「どう? 生きてる?」と声を掛ければ、社員が本音を話してくれる。

そんな単純な話でもありません。

人によって違いますし、仕事そのものに問題がある場合もあります。

忙しすぎるのかもしれません。

人間関係かもしれません。

仕事が自分に合っていないのかもしれません。

将来が見えないのかもしれません。

あるいは、単純に、その仕事が好きではないのかもしれません。

だから、「こうすれば社員のやりがいが生まれる」という答えがあるわけではありません。

それでも、私はこの声掛けには意味があったと思っています。

それは、若手が「この人とは話ができる」と思える関係をつくれたと思うからです。

「何か問題はない?」では、話しにくい

社長が社員を心配して、

「何か問題はないか?」

「仕事で困っていることはないか?」

と聞くことがあります。

もちろん、それも大切です。

でも、聞かれた側からすると、少し構えてしまうことがあります。

「何か報告しなければいけないのかな」

「問題があると言ったら、どうなるんだろう」

「自分の仕事ができていないと思われないかな」

そんな気持ちになることもあります。

だから私は、あえて少しくだけた言葉で、

「どう? 生きてる?」

と声を掛けていました。

答えを求めているわけではありません。

仕事の状況を知りたいのではなく、ただ、相手の様子を知りたい。

それだけです。

そして、「死んでますよ~」と返ってきたら、

「何? 何? どうした?」

と話を聞く。

「生きてますよ!」と返ってきたら、

「元気そうだね? 何かいいことあった?」

と話を聞く。

そこから初めて、その人が今の仕事をどう感じているのかが見えてくることがあります。

「やりがい」は、会社から与えるものではない

私は、会社が社員に「やりがいを持たせる」ことはできないと思っています。

誇りも同じです。

会社が、

「あなたの仕事は大切です」

「あなたの仕事は社会の役に立っています」

と言ったからといって、社員がその瞬間に誇りを持てるわけではありません。

本人がそれに「気づく」までは。

では、会社は何もしなくていいのでしょうか?

そんなことはないと思います。

「自分の仕事は大切なものなんだ」

「自分の仕事は社会の役に立っているんだ」

「自分の仕事はみんなに感謝されているんだ」

では、社員自身が「この仕事には意味がある」と感じられるのは、どんなときなのでしょうか。

その答えを会社が一方的に決めることはできません。

だからこそ、まずは本人の話を聞いてみることが大切なのだと思います。

私が会社を去った理由

ここからは、私の実際の話です。

役職もあり、仕事も任されていた私でしたが、

「自分の仕事は大切なものなんだ」

「自分の仕事は社会の役に立っているんだ」

「自分の仕事はみんなに感謝されているんだ」

を、頭ではわかっていても、感じられなくなってしまっていたのです。

自分自身が仕事に「やりがい」を感じられない状態で、部下に「仕事の意味」や「やりがい」を語るのは、やはり難しいものでした。

そんな状態が続き、「もうここにいるべきではない。」とも思うようになり、退職の道を選びました。

あの時、どんな状態だったら辞めなかったのだろう

ある日、辞めた会社のCMがテレビで流れていました。

それを見たときに、はっと、気づいたのです。

「働いていた会社の目的」や「私がやっていた仕事の意味」を。

残念ながら、会社にいたときはそれに気づけませんでした。

「自分の仕事は大切なものなんだ」

「自分の仕事は社会の役に立っているんだ」

「自分の仕事はみんなに感謝されているんだ」

辞める前は、何度も頭で繰り返し、自分自身を納得させようとしたけどできなかった。

なぜ気づけなかったのだろう。

あの時の自分に声を掛けるとしたら

「なんで辞めるの?「

ではなく、

「どう? 生きてる?」

だったら、もしかしたら違っていたかもしれません(笑)。

決して、辞める前に話した人が悪かった、ということではありません。

しかし、もしも、

仕事について本音で話せていたら。

「ここがめんどくさい」と本音で言えてたら。

「こうしたらいいんじゃないか?」と本音で言えてたら。

実際に一緒にやってみてくれてたら。

やってみた結果を一緒に振り返ってくれてたら。

自分の仕事が、誰かの役に立っていることを再認識できたかもしれない。

自分の仕事が、誰かに支えられていたことに気づけたかもしれない。

そして、もう一度「自分の仕事に誇りを持てる」と思えるようになっていたかもしれない。

と、思うのです。

しかし、それを周りや会社が私にしてくれなかったのが残念、という話ではありません。

私自身が今頃それに気づき、周りにやってあげていなかったことが残念であり、申し訳なかったと思っているのです。

まず、会社が始めたいこと

社員が、自分の仕事を誇りに思っているかどうか。

それを聞くのは、難しいかもしれません。

「あなたは、自分の仕事に誇りを持っていますか?」

そう聞かれても、答えに困ってしまうでしょう。

それよりも、普段の会話の中に、その人の仕事に対する気持ちが表れるのを聞いた方がいいかもしれません。

「この仕事、めんどくさいんですよ」

「ここ、もう少し何とかならないですかね」

「こうしたほうが早いと思うんですけど」

「この前、お客さんに助かったって言われました」

そんな何気ない言葉です。

もしかすると、「めんどくさい」という言葉の中にも、仕事を良くしたいという気持ちが隠れているかもしれません。

「こうしたほうがいい」という言葉の中には、自分の仕事を自分で考えようとする気持ちがあるかもしれません。

そして、そうした小さな変化を見つけることも、会社づくりの一つなのだと思います。

「自分の仕事に胸を張れる」会社へ

第1回では、社員が「言わなくなった」ことについて考えました。

第2回では、自分の仕事が「何につながっているのか」という、仕事の意味について考えました。

そして今回は、その仕事をしている本人が、どんな気持ちで仕事をしているのかについて考えてみました。

安心して話せること。

自分の仕事の意味を知ること。

自分で考え、工夫してみること。

誰かの役に立ったと感じること。

少しずつ、自分の仕事だと思えるようになること。

こうしたものが一つひとつ積み重なって、いつか、

「自分は、この仕事をやっているんだ」

と胸を張って言えるようになるのかもしれません。

でも、そのために社長が最初から「やりがいを持たせよう」と頑張る必要はないのではないでしょうか。

まずは、社員のそばに行ってみる。

そして、こんなふうに声を掛けてみる。

「どう? 生きてる?」

もしかすると、

「何とか生きてます……」

「死んでますよ~」

そんな返事が返ってくるかもしれません。

そのときは、少し笑って、

「何? 何? 大変なこと起きてる? 手伝おうか?」

と聞いてみる。

そこから始まる会社づくりも、きっとあると思います。

社員にやりがいを持たせるのではなく、社員が自分の仕事について考え、話し、仕事を少しずつ自分のものにしていける環境をつくる。

その先に、「この会社で働いていてよかった」と思える瞬間が生まれるのかもしれません。

次回は、「任せる」ということについて考えてみたいと思います。

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