【組織づくりの処方箋 第4回】うちの社員は「何の専門家」なのか?――強みを引き出す役割の再定義

「この研修、行かせる意味があるのかな?」

会社で研修の話をすると、こんなことを言われることがあります。

「先輩が教えればいいんじゃない?」

確かに、それで仕事を覚えることはできます。

でも、私は若いころの自衛隊時代を思い出すと、少し違うような気がするのです。

自衛隊では「学校に行きたい」と思った

私は若いころ、海上自衛隊にいました。

自衛隊には、いろいろな仕事があります。

そして、それぞれの仕事について、専門的な知識や技能を身につけるための学校があります。

私も、部隊を離れて学校に行ったことがあります。

正直に言えば、学校に行けば船を下りられる。

それも、ちょっと嬉しかったです(笑)。

でも、それだけではありませんでした。

学校で専門的なことを学んで、数か月後に元の部隊へ戻ります。

ところが、不思議なんです。

戻ってきた部隊は、前と同じです。

仕事をする人も、ほとんど同じです。

それなのに、なんとなく景色が違って見えました。

そして、周りの人から、

「お~、帰ってきたか!」

と声をかけられる。

なんだか、以前とは少し違う目で見られているような感じがするんです。

そして、一番の違いは、自分の担当がはっきりと決められたことでした。

出る前は先輩の名前が貼られていたところが自分の名前に変わっていたのを見たときは少しうれしくなりました。

もちろん、学校に行ったからといって、何でも一人でできるようになったわけではありません。

分からないことは先輩に聞きます。

上司にも相談します。

それでも、

「自分はこの分野について学んできた」

という感覚がありました。

そして、周りもそれを知っている。

今思えば、これは結構大きなことだったのではないかと思います。

会社に入って、少し違和感がありました

その後、会社に入って、私は少し違和感を覚えました。

自分の「担当」がない。

もちろん、「担当分野」はありますが、「自分の」というものはありませんでした。

会社にも研修があります。

もちろん、研修そのものは大切です。

でも、研修を受けたからといって、必ずしも「この人はこの専門の人」という見方にはあまりなりません。

研修から帰ってきても、

「お疲れさん。じゃあ、今までどおり仕事をよろしく」

で終わってしまうこともあります。

以前、私が部下に研修へ行ってもらおうとしたとき、

「じゃあ、この研修に行ってね。帰ってきたら、この仕事をやってもらうから」

と言ったことがあります。

すると、

「え~、自分ですか? 行かなくていいですよ。行ったらやらないといけなくなるんでしょ?」

と言われました。

思わず笑ってしまいましたが、今考えると、これは結構大事なことを言っていたのかもしれません。

その人にとって、研修は「自分が一段上の仕事ができるようになる機会」ではなく、

「新しい仕事を増やされるきっかけ」

に見えていたのです。

「仕事を教える」と「専門家として育てる」は違う

会社では、仕事を覚えてもらうことが重要です。

先輩が仕事を教える。

OJTで経験を積む。

必要なら研修にも行く。

どれも大切です。

ただ、それだけでは、本人の中に「自分はこの仕事について、こういうことができる人間なんだ」という感覚が生まれにくい場合があります。

自衛隊のときは、学校で学ぶことと、その後の自分の専門性が、比較的はっきりつながっていました。

「この分野について勉強してきた」

「この分野を担当する人として見られている」

そういうものが、本人にも周りにも分かりやすかった。

だから、元の部隊に戻ったとき、同じ場所なのに、少し違う景色に見えたのかもしれません。

「お~、帰ってきたか!」の意味

今になって考えると、あの「お~、帰ってきたか!」という言葉には、結構いろいろなものが入っていた気がします。

単なる「おかえり」ではありません。

「勉強してきたんだな」

「これからは頼んだぞ」

そんな周りの認識が、何となく伝わってきた。

そして、自分自身も、

「自分は少し変わったんだ」

と思えた。

人は、こういうときに仕事に対する見方が変わるのかもしれません。

会社でも、同じことができるのだろうか

もちろん、会社に自衛隊と同じ制度を作ればいい、という話ではありません。

会社には会社の仕事があります。

役職や等級制度もあります。

でも、こんなことは考えてみてもいいのではないでしょうか。

「この社員は、今、何ができる人なのだろう?」

「次に、何ができるようになってほしいのだろう?」

そして、

「本人も、それを分かっているだろうか?」

研修を「仕事を覚えさせるためのもの」と考えるだけではなく、

「この人が、どんな専門性を身につけていくのか」

という視点で見てみる。

会社でも、社員がどんな専門性を身につけていくのかを考えることはあります。

研修の計画を立てたり、必要な資格を取ってもらったり、仕事の幅を広げてもらったり。

私が違うと感じたのは、そこではありません。

自衛隊では、学校から戻ってきたときに、本人も周りも、

「この人は、前とは少し違う」

と感じる瞬間があった。

数か月前まで一緒に仕事をしていた人なのに、

「お~、帰ってきたか!」

と迎えられる。

その一言の中に、

「勉強してきたんだな」

「一段上のことができるようになったんだな」

という周りの見方が含まれていたように思います。

そして、自分自身も、少しだけそう思っていた。

今になって考えると、私が感じていたのは、単に「知識が増えた」ということではなかったのかもしれません。

「自分が成長したことを、自分も周りも分かっている」

その感覚だったのではないでしょうか。

「自分は何ができる人なのか」

私は会社員時代、自衛隊との違いを、ずっとはっきり説明できませんでした。

自衛隊にも大変なことはありました。

会社にも、会社ならではの良さがあります。

だから、「自衛隊のほうが良かった」という話でもありません。

ただ、今振り返ってみると、自衛隊では、

「自分は何の専門家なのか」

ということを、本人も周りも意識する機会が多かったように思います。

そして、それが少しずつ「自分の仕事」という感覚につながっていたのかもしれません。

会社では、様々な仕事をこなすことに一生懸命になりすぎて、

「この人は、この会社で何ができる人になっていくのか」

というところまで、考える余裕がないことがあります。

私自身も、会社員時代に十分できていたとは思いません。

だからこそ、今になって考えています。

社員は、次に何ができるようになりたいのでしょう

社員に「やる気を出してほしい」と思うことがあります。

でも、「やる気を出して」と言われても、なかなか出るものではありません。

もしかすると、必要なのは、やる気を出させることではなく、

「自分は、これができるようになった」

「次は、これができるようになりたい」

と思えるような仕事の経験なのかもしれません。

そして、その成長を周りも見ていて、

「お~、帰ってきたか!」

と、ちょっと違う目で迎えてくれる。

そんな経験が、仕事への誇りにつながることもあるのではないでしょうか。

自衛隊で教わったのは、専門知識だけではなかったのかもしれません。

あの頃は気づかなかったけれど、

「人が専門家として育っていくことを、本人も周りも感じられる仕組み」

そんなものを、私は経験していたのかもしれません。

会社では、社員がどんな「仕事のできる人」になっていくのか。

そして、そのことを本人も実感できているのか。

たまには、そんなところから社員の成長を考えてみてもいいのではないでしょうか。

次回は、「人に仕事を任せる」ということについて、もう少し考えてみたいと思います。
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