【DX推進の処方箋 第4回】「ツール導入で終わらせない」――現場に定着し成果を出す仕組みづくり

これは、ある会社の社長と技術士の、架空の会話です。

社長「前回、ビジョンを社員に伝えることが大切だ、という話だったね。」

技術士「はい。」

社長「それで、社員にも話してみたよ。」

技術士「社員の皆さんは、どうでしたか?」

社長「まあ、すぐに何かが変わったわけではないけどね。」

技術士「それでいいと思います。では、次に見てみたいものがあります。」

社長「何?」

技術士「今、社員の皆さんがやっている仕事です。」

社長「仕事?」

技術士「はい。その仕事は、会社が目指しているビジョンにつながっているでしょうか?」

社長「……そう言われると、考えたことがないな。」

技術士「では、そこから見てみましょう。」

ビジョンと、今の仕事を比べてみる

前回、ビジョンは「仕事を変えるときの物差しになる」とお話ししました。

では、実際にはどう使えばいいのでしょうか。

例えば、会社のビジョンが、

「お客様に、もっと喜んでもらえる会社になる」

だったとします。

ここで、いきなり新しいシステムを探す必要はありません。

まず、今の仕事を見てみます。

「社員は、お客様と話す時間を十分に取れているだろうか?」

「お客様からの問い合わせに、すぐ答えられるだろうか?」

「必要な情報を探すために、社員が時間を使っていないだろうか?」

「担当者が休むと、お客様への対応が止まってしまわないだろうか?」

そんなふうに、ビジョンを物差しにして、今の仕事を見てみるのです。

すると、今まで当たり前だと思っていた仕事が、少し違って見えてきます。

「今までどおり」が、ビジョンを邪魔することもある

会社には、長年続いている仕事があります。

紙の書類。

Excelへの入力。

毎月作る資料。

何人もの人が確認する手続き。

担当者しか分からない仕事。

もちろん、それらには、それぞれ理由があります。

始めたときには必要だった仕事なのかもしれません。

でも、会社が目指す方向が変わったのであれば、仕事も変えていく必要があります。

例えば、

「お客様への対応をもっと良くしたい」

と思っているのに、社員が一日の多くを社内向けの資料作成に使っている。

「社員が力を発揮できる会社にしたい」

と思っているのに、担当者しか分からない仕事がたくさんある。

「新しいことに挑戦できる会社にしたい」

と思っているのに、承認のための書類作成に多くの時間を使っている。

そんなこともあるかもしれません。

ビジョンそのものが悪いのではありません。

今の仕事のやり方が、ビジョンに追いついていないのです。

まずは、仕事の流れを見てみる

社長「なるほど。でも、仕事ってたくさんあるよね。全部を見るのか?」

技術士「最初から全部を見る必要はありません。」

まずは、ビジョンと特に関係がありそうな仕事から見てみます。

そして、その仕事が、実際にはどのように行われているのかを見てみます。

例えば、

誰が始めるのか。

何を受け取るのか。

何を入力するのか。

誰が確認するのか。

どこへ渡すのか。

どんな資料を作るのか。

どこで時間がかかっているのか。

こうして仕事の流れを追っていくと、思わぬところに時間や手間がかかっていることがあります。

そして、その仕事が本当にビジョンにつながっているのかを考えてみます。

「困っている仕事」だけを見るのではない

ここで、少し注意したいことがあります。

仕事を見直すとき、

「社員が困っている仕事を探そう」

と考えることがあります。

もちろん、それも大切です。

でも、それだけではありません。

社員が困っていなくても、ビジョンの実現を邪魔している仕事があるかもしれないからです。

例えば、社員は、

「昔からこうやっているので、特に困っていません」

と思っている。

ところが、その仕事に毎日1時間かかっている。

会社が「社員にもっとお客様と向き合ってほしい」と考えているなら、その1時間は本当に必要でしょうか。

「困っているかどうか」だけではなく、「会社が目指す方向に、この仕事はつながっているか?」

という視点で見ることが大切です。

変えるべき仕事が見えてきたら

社長「じゃあ、ビジョンを決めて、それを物差しにして仕事を見る。すると、変えたほうがいい仕事が見えてくるんだね。」

技術士「はい。」

ただし、ここでもすぐに「システムを入れよう」とは考えません。

まず考えるのは、

「この仕事は、どうすればビジョンに近づけるだろう?」

ということです。

仕事をやめる。

仕事を減らす。

順番を変える。

担当を変える。

情報を共有する。

一度入力した情報を、何度も入力しないようにする。

いろいろな方法があります。

その中の一つとして、ITやAIがあります。

それでも、すぐにシステムを入れない

社長「つまり、ITやAIは最後に考えるのか。」

技術士「『最後』というより、『必要になったところで考える』ということですね。」

例えば、今まで紙で行っていた仕事を、そのままシステムに置き換えても、仕事の流れそのものが変わらなければ、単なる電子化で終わってしまいます。

DXで考えたいのは、

「どうすれば、会社が目指す姿に近づけるのか?」

です。

その答えが、仕事のやり方を変えることかもしれません。

ITを使うことかもしれません。

AIを使うことかもしれません。

あるいは、「この仕事は、もうやめよう」ということかもしれません。

だからこそ、順番が大切なのです。

ビジョンを決める。

↓

今の仕事を見る。

↓

ビジョンとのギャップを見つける。

↓

仕事をどう変えるか考える。

↓

必要なら、ITやAIを使う。

これが、今回考えたいDXの進め方です。

今回のまとめ

DXというと、

「どんなシステムを入れればいいのか?」

と考えてしまいがちです。

でも、その前に考えることがあります。

「会社は、どこへ向かいたいのか?」

そして、

「今の仕事は、その方向につながっているのか?」

です。

ビジョンを決めることは、ゴールを決めることです。

そして、今の仕事を見ることは、現在地を知ることです。

ゴールと現在地が分かれば、その間にある「ギャップ」が見えてきます。

DXで考えるべきなのは、そのギャップをどう埋めるかです。

社長「なるほど。ビジョンを決めたからといって、すぐDXを始めるわけじゃないんだね。」

技術士「はい。まずは、ビジョンと今の仕事をつないでみることです。」

社長「じゃあ、次は社員に仕事のことを聞いてみようか。」

技術士「そうですね。ただ、ここにも少しコツがあります。」

次回は、社員から「今の仕事について、どう感じているのか」を聞くところから考えてみたいと思います。

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