【組織づくりの処方箋 第2回】「想いが伝わらない」と感じたら――社員の働く動機を紐解く

これは、ある会社の社長と技術士の、架空の会話です。

「前回の話を聞いて、少し社員との接し方を変えてみたんです」

社長がそう言いました。

「どうでした?」

「少しずつですが、社員が話してくれるようになりました」

「それは良かったですね」

「ええ。ただ……」

社長は少し考えてから、こう続けました。

「話してくれるようにはなったんですが、仕事が前より良くなったかというと、そうでもないんです」

私は少し考えてから、社長に聞きました。

「社長、社員は何のために働いているんでしょう?」

「安心して話せる」と「仕事に前向きになる」は、同じではない

前回、社員が安心して話せる職場について考えました。

「こんなことを言ったら怒られるかもしれない」

「失敗したことを話したら責められるかもしれない」

そんな不安が少なくなれば、社員は問題や意見を話しやすくなります。

これは、とても大切なことです。

でも、少し考えてみてください。

安心して働けることと、仕事に前向きに取り組めることは、同じでしょうか。

「怒られないから、言われた仕事をする」

という状態でも、安心しているように見えるかもしれません。

でも、それだけでは、その人の力が十分に発揮されているとは限りません。

では、何が必要なのでしょうか。

「うちの会社は、給料は悪くないから」

以前、私が会社員だったころ、こんな話を耳にすることがありました。

「うちの会社は、給料は悪くないから、悪い会社ではない」

確かに、給与は大切です。

生活のために働くのですから、給与が低すぎれば不満につながります。

労働時間や休暇、職場環境なども同じです。

こうした条件が悪ければ、「この会社で働き続けるのは難しい」と感じるでしょう。

心理学者のフレデリック・ハーズバーグは、仕事に対する人の感情に関係する要因を、「衛生要因」と「動機づけ要因」に分けて考えました。

給与や労働条件などは、主に衛生要因として考えられます。

これらが悪ければ、不満につながります。

だから、会社としてきちんと整えることは、とても大切です。

ただし、ここには一つ考えておきたいことがあります。

「不満がないこと」と「この仕事をやりたいと思えること」は、同じではありません。

給与を適切にすることは、マイナスをゼロに近づけるために必要です。

でも、それだけで仕事そのものに意味ややりがいを感じられるとは限りません。

私自身も、仕事の意味が分かっていませんでした

実は、私自身にも似たような経験があります。

会社に入ったばかりのころ、毎日のように機器の点検作業をしていました。

正直、うんざりしていました。

「いつまで、こんな仕事をしないといけないんだろう……」

そんなことを思っていました。

上司から言われるのは、

「ちゃんとやれよ」

くらいです。

でも、今振り返ってみると、当時の私は、その仕事が何のために必要なのかを理解していなかったんです。

ただ、毎日決められた点検をする。

それが仕事だと思っていました。

でも、今ならその仕事の意味を説明できます

何年も経ってから、私はその仕事の意味が分かるようになりました。

毎日の点検があるからこそ、異常を早く見つけることができる。

そして、いざというときに機器がきちんと動作する。

つまり、あの単純に思えた点検作業は、「何も起こらないこと」を支える仕事だったのです。

今の私なら、後輩にその仕事をお願いするとき、ちゃんと説明できます。

「毎日同じことをやっているように見えるけれど、この点検があるから、いざというときに機器が動くんだ」

そう説明すれば、同じ仕事でも見え方は変わるかもしれません。

仕事そのものが変わったわけではありません。

その仕事が何につながっているのかを理解したことで、仕事の意味が変わったのです。

「やる気を出させる」前に、考えたいこと

社員の仕事に対する意欲が低いと感じると、会社は「どうやってやる気を出させるか」を考えがちです。

研修をする。

目標を設定する。

表彰制度を作る。

もちろん、それらが役に立つこともあります。

でも、その前に考えてみたいことがあります。

「社員は、自分の仕事が何につながっているのかを知っているだろうか?」

例えば、

  • この仕事は、誰の役に立っているのか
  • この作業がなかったら、誰が困るのか
  • 自分の仕事は、会社のどんなところを支えているのか
  • お客様に、どんな価値を届けているのか

こうしたことを考えてみる。

私は、人に「やる気を出させる」のではなく、自分の仕事に意味を感じられる環境をつくることが大切なのではないかと思っています。

社長自身は、何のために会社をやっているのでしょう

ここで、もう一つ考えてみたいことがあります。

社員に仕事の意味を伝えるためには、まず会社そのものが、何を目指しているのかが見えている必要があります。

「うちは○○という商品を売っています」

それだけではありません。

「その仕事を通じて、誰の役に立っているのか?」

「なぜ、この会社をやっているのか?」

ということです。

社長に聞いてみたいと思います。

「社長は、何のためにこの会社を始めたんですか?」

創業したころには、

「こんな会社にしたい」

「こんな仕事をしたい」

「こんなお客様に喜んでもらいたい」

という思いがあったのではないでしょうか。

ところが、会社を続けていると、売上、利益、採用、納期、資金繰りなど、目の前の問題に追われるようになります。

いつの間にか、会社が何のために存在しているのか、自分自身でも考えなくなっていることがあります。

立派な言葉を作ればいいわけではない

だからといって、すぐに立派な経営理念を作りましょう、という話ではありません。

大切なのは、壁に貼る言葉を作ることではありません。

その会社が目指していることと、社員一人ひとりの仕事がつながっていること。

例えば、社長が「お客様に安心を届けたい」と考えているなら、

「では、あなたの仕事は、その『安心』にどうつながっているんだろう?」

と社員と一緒に考えてみる。

そうすると、今まで「ただの作業」だと思っていた仕事の中にも、意味が見えてくるかもしれません。

「この仕事をしていてよかった」と思える会社へ

社員が安心して話せる。

そして、自分の仕事が何の役に立っているのかが分かる。

それだけでも、仕事の見え方は少しずつ変わっていくのではないでしょうか。

「言われたからやる」のではなく、

「自分は、この仕事をしている」

という感覚が生まれてくる。

そして、その先には、もう一つあると思います。

「この仕事をしていてよかった」

「この会社で働いていてよかった」

そう思えることです。

社員のやる気を上げようとする前に、まず考えてみませんか。

「社員は、自分の仕事の意味を知っているだろうか?」

そして、社長自身にも問いかけてみてください。

「私は、何のためにこの会社を経営しているんだろう?」

そこから、会社づくりが少し変わるかもしれません。

次回は、さらにもう一歩先を考えてみます。

「社員は、自分の仕事を誇りに思っているでしょうか?」

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