【組織づくりの処方箋 第5回】「任せる」と「丸投げ」の境界線――権限移譲で失敗しないポイント

「社員に仕事を任せる」

会社では、よく聞く言葉です。

「もっと部下に仕事を任せないと」
「いつまでも自分でやっていたら、社員が育たない」

たしかに、その通りだと思います。

でも、ふと考えてみました。

「仕事を任せる」って、そもそもどういうことなんだろう?

私は仕事を任されていたのだろうか。
また、私は人に仕事を任せていたのだろうか。

印象に残っている仕事

これまでの仕事を思い出してみると、印象に残っている仕事には、ある共通点がありました。

若いころ、社内に初めてLANを構築したことがあります。

当時は、印刷するたびにプリンターのところまでパソコンを持っていく。

「これ、なんとかならないかな」と思って、ネットワークでつないでみました。

うまくいった。

そして、その取り組みを社内の研究発表会で発表したことをきっかけに、社内のネットワーク化が進んでいきました。

もう一つ、道路の状態を把握するシステムの開発があります。

今のようにGoogle Mapなどもない時代です。

点検作業で道路を走っていた私は、

「道路の写真を撮っておけば、パラパラ漫画みたいに道路の状態を見られるんじゃないか」

と考えました。

そして、やってみた。

これも後の道路管理システムへと発展していきました。

この二つの仕事は、大変でしたが、楽しかった思い出として残っています。

なぜ、楽しかったのか

改めて考えてみると、私が思いついたことを、周りの人が受け止めてくれていたんです。

やろうとしたことを聞いてくれた。

やろうとしたことを認めてくれた。

やろうとしたことをやらせてくれた。

そして、応援してくれた。

だから私は、

「どうやって作ろう?」
「この方法で大丈夫かな?」
「こっちのやり方のほうがいいんじゃないか?」

と、自分で考えながら仕事を進めることができました。

分からなければ人に聞く。

でも、最後は自分で考えて、やってみる。

それが楽しかったし、自分の成長にもつながっていったのだと思います。

「やってみたい」は、どこから生まれるのか

では、そもそも、なぜ「やってみたい」と思ったのでしょうか。

これは、周りから「この仕事は面白いよ」と言われたからといって、簡単に生まれるものではありません。

関心や興味を持つのは、本人です。

私自身、高校生の頃、飛行機の整備士になりたかったんです。

自分が整備した飛行機を、手を振って見送る。

「なんてカッコいい仕事なんだ」

と思ったものでした(笑)。

今思えば、ずいぶん単純なきっかけです。

でも、仕事との出会いなんて、案外そんなものなのかもしれません。

「なんかカッコいい」
「なんか面白そう」
「ちょっとやってみたい」

そんなところから始まってもいい。

きっかけだけでは、続かない

ただ、ここで大事なのは、きっかけだけでは続かないということです。

例えば、自衛隊の災害派遣を見て、

「自分も、あんなふうに人の役に立ちたい」

と思って自衛官になる人もいるでしょう。

ところが、実際に入ってみれば、毎日の訓練があります。

同じようなことを何度も繰り返すこともあります。

「これは一体、何のためなんだろう?」

災害が起きなければ、自分たちの仕事は発揮できないのではないか。

そんなことを考えることもあると思います。

そこで、最初に持っていた「人の役に立ちたい」という気持ちを、そのままにしてしまったらどうでしょうか。

だんだん仕事が、ただの「毎日の訓練」になってしまうかもしれません。

だからこそ、「この訓練は、いざというときに人を助けるためにある」と、自分の仕事とのつながりを感じられることが大切なのだと思います。

きっかけをつくることも大切。

でも、それ以上に、その気持ちを仕事の中で持ち続けられることが大切なのではないでしょうか。

仕事を任せる、ということ

そう考えると、「仕事を任せる」という言葉も、少し違って見えてきます。

仕事を任せるとは、単に仕事を渡すことではない。

その人が興味を持ったこと、やってみたいと思ったことを聞く。

認める。

やらせてみる。

そして、応援する。

その中で、その人が仕事の意味を見つけ、自分で考え、工夫する。

もちろん、すべての仕事を自由にできるわけではありません。

安全や品質のために、決められた手順を守らなければならない仕事もあります。

新人なら、まず仕事のやり方を覚えることも必要です。

だから、「自由にやらせればいい」という話ではありません。

その人が仕事に関わり続けられるようにする。

そのために、周りが話を聞き、認め、必要なときにはやらせてみて、応援する。

そんな関わり方も、「仕事を任せる」ということなのではないでしょうか。

その先にあるもの

自分で考えて、やってみる。

それが誰かの役に立つ。

すると、

「やってよかった」

という気持ちが生まれる。

それが何度か積み重なると、

「自分は、この仕事をしている」

という感覚が生まれてくる。

その先に、仕事への誇りがあるのかもしれません。

社長。

社員が「この仕事、ちょっとやってみたい」と思えるものは、会社の中にあるでしょうか。

そして、一度持ったその気持ちを、仕事を続ける中で失わずにいられるでしょうか。

社員がやってみたいと思ったことを、聞いていますか。

認めていますか。

やらせていますか。

応援していますか。

「仕事を任せる」ということを、もう一度考えてみませんか。

仕事を渡すのではなく、その人が仕事に関わり、自分で考え、やってみることを支える。

私は、それも「仕事を任せる」ということなのだと思います。

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